デジタルファブリケーションが装具の可能性をひろげる~東北福祉大学 健康科学部 川﨑研究室

更新日: 2024年3月12日
 

東北福祉大学健康科学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻の川﨑研究室では、3Dスキャンや3Dプリンティングといったデジタルファブリケーション※1技術を理学療法の分野に活用し、実用化するための研究開発に企業や外部団体と連携して取り組み、学術分野に加えて、理学療法分野における産業の発展も目指しています。

今回は、同研究室の川﨑善徳助教に、産業技術総合センター(以下「センター」)の活用事例や対外的な連携事例、将来のビジョンについてお話をお伺いしました。

※1 デジタルファブリケーション:デジタルデータを活用してものづくりを行うこと。例えば、3Dスキャナーや3D-CADのデータを元に3Dプリンターでモデルを造形したり、レーザーカッター等で材料を加工すること。

デジタル技術で作った装具の実用化に向けて

「今、理学療法の分野にデジタルファブリケーションを活用する動きがかなり広がってきています。私たちはデジタルファブリケーションを理学療法の分野に活用することで、いろいろなメリットが生まれると考えています。」

一見すると理学療法とデジタル分野の関係は遠く離れているようにも感じますが、川﨑氏は以下のようなメリットがあると教えてくれました。

・患者の個々のニーズに合わせたリハビリ練習用の装具や足底板などを製造できる。
・従来の製造方法に比べて、製造コストや納期を抑えられる可能性がある。
・これまでの製品とは違ったデザインを実現し、患者のモチベーションを高め、リハビリテーションの効果を向上させられる可能性がある。

データ上で装具を設計する様子。
研究室にならぶ3Dプリンターで造形した短下肢装具の試作品。

「デジタルデータは遠隔地域の人たちとやりとり出来ることも大きなメリットですね。例えば、海外のリハ(リハビリテーションの略)が発展していない地域の患者さんともやりとり出来ます。」

川﨑研究室では、3Dスキャナーで取得した患者の脚部のデータを3D-CADに読み込み、個々人の体型に合わせた短下肢装具※2を設計し、3Dプリンターで造形するという取り組みを進めています。

「デジタルであれば、日本にいながら世界各地の人たちの体型に合わせた装具を設計し、データを提供できます。患者は、3Dプリンターを使って自分の体に合った装具をより手軽に入手できるようになります。」

川﨑氏は、約12年前に海外青年協力隊に参加し、中国山東省の大学病院でリハビリテーション普及のための活動を行っていました。そういった病院では、短下肢装具を活用したリハビリテーションはほとんど普及していないそうです。その理由を調べてみると、(現地で入手できる短下肢装具の)価格の高さや品質の低さに原因があることがわかり、安価かつ品質の高い装具を3Dプリンターで作ろうと研究開発をはじめたとのことでした。

※2 短下肢装具:脳卒中などの影響で麻痺が残る患者を対象に、足首の動きを制限し、歩行機能を補助する道具。

短下肢装具を3Dプリンターで造形する様子。

産業技術総合センターや企業・外部団体との連携

「実は、つい最近までデジタルファブリケーションに詳しくなかったんです。(技術習得のため)まずはじめに、インターネットで検索して、3Dプリンターで自助具※3を作っている一般社団法人ファブリハ・ネットワークを訪ねました。そこで仙台市内にあるファブラボ※4FabLab SENDAI-FLATやセンターのことを紹介してもらったんです。」

センターを紹介された川﨑氏は、実用に耐えうる性能を持った3Dプリンター製の短下肢装具を自ら設計する技術を身につけるために、機器開放技術改善支援のスキームを活用しました。

「センターの篠塚さんには3Dスキャナー(アーム式デジタイザ)を使ってデータを取得する方法や、FUSION360(3D-CAD)の使い方を教わりました。他にも3Dプリンターで造形した短下肢装具が安全に使えるかの試験も行いました。高速引張圧縮試験機3Dひずみ計測システムで試験を行うんですが、担当の四戸さんには、試験条件や、造形した短下肢装具を機械に固定する方法などの相談にのってもらいました。四戸さんは、いつもびっくりするくらいスピーディーに対応してくれて本当に助けてもらっています(笑)。」

※3 自助具:身体の不自由な人の日常生活を補助する道具のこと。例:持ちやすい箸、靴下を簡単に履く道具など。

※4 ファブラボ:デジタル工作機械などを備えた一般市民開放型の工作室のこと。

高速引張圧縮試験機で試験を行う様子。実際にかかる荷重を想定して試験を行う。
画像解析で装具にかかる負荷を可視化(カラーマップ化)した様子。赤い部分に強い負荷がかかっている。

「この研究をはじめてから産学官連携の機会が増えています。必要なデジタル技術を習得できる機会を探していたら、自然とつながりが広がった感じですね。」

川﨑氏は、みやぎデジタルエンジニアリングセンター(宮城県産業技術総合センター)が運営するAM実用化プロジェクトにも参加し、民間企業と共同で、トポロジー最適化※5やラティス構造※6を設計に取り入れた、高性能の短下肢装具を3Dプリンターで生産する取り組みも行っています。この取り組み内容は宮城AM研究会で発表予定とのことでした。

※5 トポロジー最適化:ある制約条件の下で、材料の最適な配置をシミュレーション技術で計算する手法。軽量化と強度を両立した構造体などを作ることができる。

※6 ラティス構造:枝上に分岐した格子構造を周期的に並べた立体形状。

今後のビジョンについて

「理学療法分野にデジタルファブリケーションを導入することで、理学療法の質の向上と患者のQOLの向上を実現し、理学療法分野の産業の発展に大きく貢献していきたい。」

「日本と中国の友好と日中のリハビリテーションの質の向上に向けて、現在開発している3Dプリンターで造形した練習用短下肢装具を中国山東省の病院に普及させ、質の高いリハビリテーションを提供していきたいと思っています。」

理学療法産業でのデジタルファブリケーション技術のさらなる活用を目指す川﨑研究室では、現在、3Dプリンターで造形した短下肢装具の実用化・普及のために臨床試験も行っていて、良好な結果が得られているようです。

産業技術総合センターに期待すること

「デジタルファブリケーションを活用した理学療法の研究開発を継続的に支援してもらいたいです。センターが有する技術やノウハウを理学療法の現場に提供することで、国際交流や連携が推進することを期待しています。」

今回は、デジタル技術を活用した短下肢装具の実用化に向けて、企業や外部団体と連携して研究開発を進める川﨑氏にお話を頂きました。

研究室から仙台市中心部を望む。

研究室概要

所在地〒989-3201 仙台市青葉区国見ヶ丘6-149-1号 感性福祉研究所
連絡先E-mail:y-kawasaki@tfu.ac.jp
TEL:022-728-6009
ウェブサイトhttps://www.tfu.ac.jp/guidance/fhs/ha/
主な研究分野・人間医工学(リハビリテーション科学・福祉工学)
・国際支援
・地域研究(地域理学療法)