宮城県産業技術総合センターが平成11年度に実施した研究に関する研究報告の抄録です。
平成11年度宮城県産業技術総合センター業務年報No.31(2000)(ISSN 1340-7775)より
- 高機能磁気デバイスの開発 -携帯電源の開発/軟磁性薄膜作製技術の高度化-
- 多元感覚情報感温感圧センサシステム/多元感覚情報センサモジュール構築に向けた要素技術の開発
- 四肢関節運動のFES制御システム
- IC応用ソフトウェアの開発
- 超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発 —洗浄度の解析手法の確立—
- 研削加工による超精密・鏡面部品の高能率加工プロセスの開発
- アルカリ熱硬化法による低コスト・多機能建材の開発
- 宮城県産清酒製造用の有用酵母の開発
- 新規酵母を用いた低アルコール清酒の開発
- 天然抗酸化成分の食品への応用
- 微量有害陰イオン種の分析と分離のための分離技術に関する研究
- 三次元設計及びラピットプロトタイピング技術を活用した商品化支援研究
- 水煮フキの品質安定化技術と加工品の開発
- 夏出し特産野菜の品質保持技術の確立
- 中山間地域の特性を活かした畑特作物高生産性栽培技術体系の確立
小瀬菜大根の加工品の開発 - 雑誌古紙を用いた発泡成形エコマテリアルの開発
高機能磁気デバイスの開発 -携帯電源の開発/軟磁性薄膜作製技術の高度化-
<研究事業名>地域結集型共同研究事業
<担当者名> 高田健一,堀豊,古川博道
<目的>電源モジュールの小型化に不可欠な薄膜磁気デバイスの開発
<内容および結果>
1.概要
携帯型電子機器の電源モジュール(スイッチング方式DC-DCコンバータ)小型化のために,その主要部品であるインダクタ(トランス)を薄膜化することを目的として,平成11年度は磁場シミュレーションにより複数のタイプの薄膜インダクタにおいて目標仕様を満足するインダクタの設計を行った。また,携帯電源の目標仕様設定のため,携帯型電子機器に用いる電源の仕様について調査検討を行った。
2.携帯電源仕様の調査結果
今年度調査したスイッチング方式DC-DCコンバータ用ドライバICの中で回路基板面積が最小であったのは,MAXIM製MAX1692であり,TDK製10μHチップインダクタを採用することにより回路基板面積60mm2,厚さ2.4mm,出力200mAの降圧動作を実現している。MAX1692は,降圧型であることから明らかにシリーズレギュレータの置き換えを狙ったドライバICであり,現状では開発目標である小型DC-DCコンバータ大きさの一つの指標となる。従って,薄膜インダクタの薄さのメリットを最大限に生かし,基板裏面に薄膜インダクタを設置することにより基板面積60mm2,厚さ1.8mmのDC-DCコンバータを実現することを目標とした。故に,薄膜インダクタの設計面積は50mm2を上限に設定し,磁場シミュレーションを用いた最適設計を実施した。
3.薄膜インダクタの磁場シミュレーション結果
サイズ一定(横幅5mm×長さ10mm),インダクタンス一定(1μH)の条件のもとで,スパイラル型,ソレノイド型,ミアンダ型といった複数のコイル形状について磁場シミュレーションを実施し,各々のターン数,電気特性を検証した。
この結果から,スパイラル型は,他形状に比べR(DC)が小さいがR(AC)が大きく,その結果Qが小さくなる。しかし,R(AC)は磁性体の多層化,分割等により低減可能と考え,基本設計はスパイラル型を中心に実施した。
4.薄膜インダクタの設計
携帯電源仕様の調査結果及びトレンドから,薄膜インダクタの目標特性をインダクタンス1μH,DC抵抗0.5Ω,Q=15,出力電流0.5Aとし,目標サイズを40mm2以下に設定した。詳細な磁場シミュレーションを実施した結果,横幅3mm,長さ12mm,コイル巻き数4ターンのスパイラル型インダクタで上記の目標仕様を満足できることが明らかとなった。得られた設計パラメータを基礎として,試作に必要なフォトマスクを製作して薄膜インダクタを試作(依託試作)した結果,インダクタンス0.85μH,DC抵抗0.9Ω,Q=14.5と,ほぼ仕様を満足する薄膜インダクタを完成した。
多元感覚情報感温感圧センサシステム/多元感覚情報センサモジュール構築に向けた要素技術の開発
<研究事業名>地域結集型共同研究事業
<担当者名>中居倫夫,天本義己,古川博道
<目的>平成10年度に試作したアレイセンサ信号収集システムの高精度化と,感温感圧センサの産業化ターゲット調査
<内容および結果>
平成10年度に,アレイセンサの指定行列番地のセンサ抵抗値を電圧信号に変換し,コンピュータディスプレイ上に2次元分布図を表示するシステムを試作した。この試作システムでは,測定されるパラメータは,センサの抵抗値Rとセンサの抵抗変化ΔRの和(R+ΔR)である。ところが,本テーマのセンサ素子開発グループが開発中のセンサは,ΔR/Rが1%程度の性能であることが明らかとなった。このような小さな抵抗変化を精度よく検出するためには,アレイセンサ信号収集回路に供給する基準電圧の高精度化と,センサ抵抗値の変化分(ΔR)のみを増幅して出力する信号増幅回路が不可欠となる。また,アレイ化されたセンサ素子の個々の特性には製造プロセス上不可避な個体差(オフセット特性,感度,直線性)が存在するため,回路を高精度化した場合にはこの個体差の影響が問題になる。平成11年度は,以上の観点からアレイセンサ信号収集システムの高精度化を目的に以下の検討を行った。
(1)アレイセンサ信号収集回路への高精度基準電圧源の付加によるセンサ供給電圧の高精度化
(2)センサ抵抗変化分のみを抽出し増幅・出力する電子回路の開発
(3)センサ素子特性の個体差補正方法の開発
検討項目(1)と(2)について回路構成および構成デバイスの温度特性などを検討し回路設計を行った結果,
・センサ供給電圧安定性:4.9995V±50μV(at 25℃)
・センサ供給電圧の温度ドリフト:19μV/℃(0℃〜40℃)
・出力電圧の温度ドリフト:-6.2mV/℃(0℃〜40℃)(最終段差動増幅率100倍)
の精度を達成した。
検討項目(3)については,ソフトウェア上での補正処理がシステム柔軟性の観点から有利であることから,補正アルゴリズムの付与で対応した。
感温感圧センサの産業化ターゲット調査については,地球環境と省エネルギーが課題になっている自動車のエンジン制御用センサについてターゲット絞込みを行った。本共同研究テーマで実現を目指す薄膜歪みゲージ型圧力センサは,単体の圧力センサとして使用した場合,80℃以上の高温,-20℃以下の低温,そして100MPa(1000気圧)以上の高圧領域でメリットを有することがH10年度の調査で明らかになっている。そこで,現在の大きな社会問題であるディーゼルエンジンの微粉塵発生低減と省エネルギーへの有効性が注目されているコモンレール式直噴型エンジンへの適用を想定してセンサ仕様の策定を行った。
コモンレール式直噴型エンジンは,蓄圧容器であるコモンレールの内部に高圧の燃料(あるいは燃料加圧媒体であるエンジンオイル)を蓄え,この高圧燃料を噴射ノズルにより燃焼室内部に直接噴霧するエンジンであり,噴射タイミング制御が可能であることが従来型のエンジンと異なる大きなメリットである。これが燃費向上とNOX低減に有効であり,コモンレール内部の燃料圧力のさらなる高圧化(目標値200MPa)を図ることで,微粒子発生低減が実現可能であることが報告されている。そこで,本方式のエンジンにおける燃料噴射圧力・温度制御に使用するセンサとして,本テーマの感温感圧センサを適用すべく,市販センサの性能調査を行うとともに目標仕様を策定した。
四肢関節運動のFES制御システム
<研究事業名>福祉用具産業支援事業:福祉機器研究開発事業
<担当者名>太田靖,笠松博,佐藤明
下肢FES(機能的電気刺激)のフィードバック制御実現に向けた,立位状態センシングシステムの開発
<内容および結果>
1.立位時の重心位置センシング
FESの実用化のためには,現在の状態や動作を計測して目標位置とのずれ量を検出し,フィードバック制御する必要がある。本年度はまず,「立位」の安定化の指標である「重心」位置(COG)を,足底圧力分布計測によりCOP(圧力中心)としてセンシング可能なことを示した。センサには使用者のQOLを考慮し,身体に装着して自由に動き回れるインソール型のF-SCAN(ニッタ(株))を用いた。また同時に,三次元動作解析装置Vicon370(Oxford Metrix社)により身体各関節位置を計測し,人体の質量分布平均値を用いて身体重心位置を算出した。その結果,位置およびその時間変化ともにほぼ一致している。
2.必要最小限の計測点数の絞り込み
前項で使用したF-SCANは,約5mmピッチでの細かい圧力分布計測が可能であるが,計測点数は片足で約1,000点にもなるため,実用に際しては必要最小限のセンサですむように計測点数を絞り込む必要がある。そこで,立位のまま前後左右に揺動した際の各計測点での圧力値を積算し,その値の大きい計測点から残していき,それらから求めたCOP(圧力中心)と全測定点データによるCOPとのずれが小さいことを条件として絞り込んだ。その結果,,しきい値(積算値の最大値を1とする)が約0.7のとき,計測点数(面積比)が約0.22に絞られ,最大ずれ量は2dot(約1cm)以内に収まることが分かった。
IC応用ソフトウェアの開発
<研究事業名>先端技術開発事業:IC応用ソフトウェア開発事業
<担当者名>氏家博輝,今井和彦,守和彦
<目的>組み込み制御システムのIC応用ソフトウェアによる開発及び成果技術移転
<内容および結果>
1.研究内容
精密金型,光学部品の加工で問題となる工具と被加工物との高精度相対位置計測の自動計測システムとして,レーザ光の回折現象を用いた間隙測定システムの光学ベンチモデルの研究開発について報告する。
2.間隙自動測定システムのベンチモデル概要
レーザ光による干渉現象を用いた間隙測定のベンチモデルとして,He-Neレーザー(波長:632.8nm),単スリット(0〜500μm)と光学ベンチ,CCD,高精度移動ステージ,パーソナルコンピュータを用いて自動計測システムのプロトタイプを構築した。CCDに干渉縞の暗点が2点以上計測される場合は1sec毎の計測が可能であり,計測されない場合はCCDを高精度で移動させることで間隙測定が可能である。
3.間隙自動測定システムのベンチモデルの精度
まず,単純間隙モデルとして単スリットの測定を行い,スリット-CCD間隔,スリット幅,入射角度等の誤差要因を含めて,スリットの測定誤差5μm以下を達成することができた。これにより,既知の間隙幅の単スリットによる距離補正機構による精度向上が可能である。
さらに,このベンチモデルを用いて,複雑間隙モデルとしてスリット-Work,砥石-Workの間隙測定を行った。原点の検出が困難なため,スリット-Work,砥石-Work間の相対移動距離と測定された移動距離を比較したところ,実際より広い間隙幅として測定された。数値計算を行なったところ,Workが鏡面として働き,鏡面効果(間隙のミラーイメージ)により2倍の間隙幅として観測されることが判明した。鏡面反射を考慮して1/2倍の測定値と実際の間隙幅を比較したところ±5μm以下で研削用砥石の移動距離を測定することができた。
また,応用として放電加工用ワイヤーの直径を測定したところ,誤差±5μm以下で測定することができた。
4.考察
今回のベンチモデルでは±5μmでの,間隙測定を実現できたが,実機では,測定システムの取り付け精度や半導体レーザのコヒーレンスの欠如など,光学ベンチモデルには無い誤差要因が考えられるため,実機での検証を行い,実装時の精度についての向上させるための研究が必要である。
5.まとめ
光の回折現象を用いた間隙自動測定システムのベンチモデルの研究開発状況について報告した。今後実機への適用を検討するため,実機への取り付け方法や,実機での間隙測定実験や,測定の高速化などを進める。
超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発 —洗浄度の解析手法の確立—
<研究事業名>地域コンソーシアム研究開発事業
<担当者名>宮本達也,佐藤勲征,中塚朝夫
<目的>
汚れ成分に応じた分析手法の策定を行い,超臨界流体で洗浄した試料の分析を行う。これにより,超臨界流体洗浄法の能力の評価を行う。また,簡便かつ実用的な洗浄度評価方法を確立する。
<内容及び結果>
本研究(実施期間平成9〜11年度)の全体の目的は,超臨界二酸化炭素を用いて,その高浸透性や回収の容易さ等の特性を生かした,環境にやさしく操作しやすい小型の工業洗浄装置を開発し,実用化をめざすことである。
<今年度の成果>
(1)超臨界流体洗浄法において最適な洗浄条件を探るため,実際の汚染物に含まれる化合物をモデル汚染物質としてステンレステストピースに付着させ,洗浄時間・温度,圧力・超音波等の条件を変えながら亜臨界,臨界点近傍及び超臨界二酸化炭素による洗浄実験を行った。また洗浄結果から得られた有効拡散係数を用いて洗浄の効果がシミュレーション可能であることを示した。
(2)全反射X線光電子分光装置(TR-XPS)による絶対的な検出感度を把握するために,微量汚染物のX線光電子スペクトルを測定し,1012 atoms / cm2 (10-3 monolayer) 程度の銅原子を検出した。
(3)簡便な洗浄度評価方法について蛍光顕微鏡を応用し,油やフラックスなどの有機汚染物質では従来評価に用いていた顕微赤外分光法と同程度の検出能力(検出限界:有機物質の膜厚で約20 nm)を持つことを確認した。また,蛍光顕微鏡,赤外分光法(FT-IR),XPS等について得られた結果から,各被洗浄物の汚染許容量に応じた適切な評価分析手段を適用する方法を確立できた。
研削加工による超精密・鏡面部品の高能率加工プロセスの開発
<研究事業名>超精密加工技術開発事業
<担当者名>森由喜男,和嶋直,久田哲弥,渡辺洋一
高能率な高精度鏡面研削加工法の開発(形状精度1μm以下,表面粗さ0.05μmRy以下)と県内企業への技術普及
<研究内容および結果>
精密金型などの付加価値の高い精密機械部品では,加工精度として1μm以下の形状精度と0.1μmRy以下の表面粗さの鏡面の同時達成が必要で,さらに近年はこれらの加工精度を満足した上で,如何に早く安く作るかといった生産性の向上が求められる。一般にこれらの精密部品にはラッピングや手仕上げ研磨などの遊離砥粒を用いた加工法が適用されており,比較的容易に鏡面加工が可能であるが,一方,面だれなどによる形状精度の劣化や加工能率の低下などが問題となる。
以上の背景から,本技術開発では能率の高い研削加工(固定砥粒加工法)により,高い形状精度と0.05μmRy以下の表面粗さを短時間に実現し得る超精密・鏡面研削に関する加工技術開発を実施した。
平成11年度実施内容の概要は次の通りである。
(1)機械部品の超精密鏡面加工技術開発
有気孔レジノイドボンド微粒ダイヤモンドホイールに対するツルーイング・ドレッシング法,砥石周速度等の加工条件の影響,加工精度に及ぼす工作機械の種別の影響等について調査検討した。この中で単石ダイヤモンドドレッサにより,3分以内でツルーイング・ドレッシングが可能な最適条件を見出し,表面粗さのばらつきを減少させることが出来た。この内容については特許出願中である。また,技術高度化支援事業により県内精密加工関連製造業4社に対して技術移転を行った。
(2)非軸対称非球面加工技術開発
表面粗さ10nmRyの光学素子の加工技術開発のため,超精密加工用材料の実験検討,同時3軸制御が可能な超精密CNC成形平面研削盤の導入,ダイヤモンドドレッサを用いたR成形ツルーイング・ドレッシングに関する基礎実験を実施した。
(3)高精度切断・溝加工技術開発
切断実験により砥石5要因の影響を調べ,焼入鋼材の良好な切断加工条件を明らかにした。さらに砥石の形状を工夫することで,より安定した切断が可能となった。
また実験結果の傾向から,切断精度向上のための問題点(砥石偏摩耗)が明らかとなり,それの解決法について調査検討を行った。この問題点に関して,平成12年度も引き続き研究を行い,課題解決を図る。
アルカリ熱硬化法による低コスト・多機能建材の開発
<研究事業名> 新素材応用研究開発事業
<担当者名> 斎藤雅弘,新日鐵化学(株) 古賀卓哉,平戸靖浩
<目的>
本研究ではアルカリ熱硬化反応の基本的な反応モデルを作成し,これに基づいた熱劣化現象メカニズムを解明すると共にその完全な防止対策を検討し,石膏ボードと同価格帯で多機能性を有した新しい内装用建材を開発する事を目的としている。
<内容および結果>
シリカガラスビーズを用いてアルカリ熱硬化反応を単純化させた結果,本反応はシロキ酸結合形成→珪酸ナトリウム塩形成,シロキ酸結合破壊→シラノール基形成→シラノール基の重合→脱水によりシロキ酸再結合と言うプロセスを経る事が分かった。よって良好な成形体を得るには完全な脱水処理により強固なシロキ酸結合を形成させる事が肝要となる。また,未反応部分の存在に起因して成形体内部に線膨張係数が約10倍異なる不均一な部分の存在が認められ,これが使用時における吸放湿に伴う成形体のクラック発生,いわゆる「熱劣化現象」の原因になっているものと考えられる。よって本現象の完全な対策としては,白土やシリカヒュームなどの第三成分を添加する事により,成形体中の未反応部分を完全になくし強固なシロキ酸結合を形成させ,線膨張係数を均一化する必要がある。以上の事を踏まえた最適な製造条件は,以下のとおりである。(ただし成形体サイズは300mm角,10mm厚)パーライト:351.0g,シリカヒューム(あるいは白土):34.9g,NaOH:147.8g(28.5wt%),加熱温度:160℃,加圧力:0.5MPa,加熱保持時間:10min
この様にして製造した本開発品の主な仕様は(1)曲げ強度:3.2MPa(2)かさ比重:0.4g/cm3 (3)吸放湿率:15.3% (4)寸法安定性:0.18% (5)耐水性:3.2MPa (6)不燃性:500℃での燃焼試験により板厚の1/10以上のクラック発生なし(7)防カビ性:設置の有無による有意性あり(8)熱伝導率:0.09kcal/mh℃(9)リサイクル性:35%添加による特性低下なし (9)加工性:カッターでの切断加工可能(10)製造コスト:約480円/m2 などである。これらより,本開発品は(1)建築用内装材(天井材,内壁材)(2)家具建具材(下駄箱,タンス,押入)(3)台所などの水回り関連部材などへの適用が可能で,低コストと多機能性を兼ね備えていると共に昨今の健康住宅のニーズにマッチしている事から,今後石膏ボード代替品として幅広い用途で利用されて行く事が見込まれる。
宮城県産清酒製造用の有用酵母の開発
<研究事業名> バイオ・食品加工技術開発事業
<担当者名> 橋本建哉,櫻田ルミ,武田俊一郎(現水産加工研究所),伊藤謙治(宮城県酒造組合)
<目的>
吟醸酵母をベースに香気成分など優良な醸造適性を有し,高いエタノール耐性を持った,高品質な純米酒・純米吟醸酒製造のための清酒酵母を開発する。
<内容および結果>
協会12号酵母の原株を親株として自然変異株より分離を試みた。エタノール耐性の中でも高エタノール濃度生存性に着目した一次分離を行い,候補株の選抜を行った。今後,得られたエタノール耐性株の醸造適性などを指標として更に選抜を進めていく予定である。
新規酵母を用いた低アルコール清酒の開発
<研究事業名>バイオ食品加工技術開発事業
<担当者名>今野政憲,武田俊一郎*(*現宮城県水産加工研究所)(株)田中酒造店 関東宣道,(株)佐浦 菅澤聡,宮城県酒造組合 伊藤謙治
清酒のツワリ香の原因物質であるビシナルジケトン(VDK)類を蓄積しにくい酵母を育種し,低アルコール清酒の商品化に対する技術的支援を行う。
<内容および結果>
低アルコール清酒用酵母として,平成9年度に取得した変異株は実用上に問題があったことから,新規のVDK低蓄積性酵母の取得法について検討することとなった。
平成11年度は,その後構築してきた新規の変異酵母取得法がほぼ確立し,実用化の候補株となる変異株60株取得するとともに,これら60株の中から最終実用株を選抜するための評価系について検討を加えた。
平成12年度は,前記評価系を基に,現有の有望60株の中から付与特性と実用性を兼ねた最終実用株(1〜2株)を選抜し,総米100Kgの試験醸造,さらには,県内企業の協力のもと実地試験醸造を行う。
天然抗酸化成分の食品への応用
<研究事業名>特定中小企業集積活性化支援事業
<担当者名>毛利哲
<目的>
本県の農水産物から新規の有用成分を見出し,抽出・素材化により健康性の高い食品を供給することを目的とする。
<内容および結果>
脂質過酸化物還元型の抗酸化能をスクリーニングした結果,本県にて多く生産されるネギに有効成分が多く含まれていた。今年度はネギに含まれている有用成分の諸性質を検討した。
スクリーニング試験では遊離脂肪酸の過酸化物を基質として用いていたが,食品や生体中に多く存在しているトリアシルグリセロールの過酸化脂質に対する作用強度を測定するため,ケミルミネッセンス-高速液体クロマトグラフ(CL-HPLC)を用いて測定した。その結果,遊離脂肪酸に比べ1/10の活性強度であった。また,ネギ由来の過酸化脂質還元能は加熱に不安定であった。
微量有害陰イオン種の分析と分離のための分離技術に関する研究
<研究事業名>環境エネルギー技術開発事業
<担当者名>小林セツ,斎藤善則
新素材の製造・加工工程の排水には有害な陰イオンの含有が懸念されている。ヒ素やセレンは形態の異なる複数の陰イオンが存在し,そのイオン種によって,化学的性質や毒性が異なるため,微量分析に加えてイオン種の分析も要求されるようになってきた。これらのイオンをイオン種ごとに排水基準値の0.1ppmで分析することを目的とした。
<内容および結果>
イオン種の分離にはジルコニア担持樹脂を充填したミニカラム(7mmφ×40mm)を試作したものを使用した。ジルコニアはイオン交換性を有するため,陰イオンの分離が可能であると予測されたためである。ヒ酸イオン(AsO43-),亜ヒ酸イオン(AsO33-)を含むヒ素化合物はカラムに効率よく吸着することを報告したがイオン種の分離は困難であった。カラムに通液する速度を1ml/minから4ml/minにすることによりカラムからの回収率を高めることができたが,0.1μg/mlのAsO33-の回収率は90%と低く,希薄なヒ素イオンの濃縮率を上げることはできなかった。このため,ヒ素のイオン種の分析についてはイオンクロマトラフ用カラム(ダイオネックス社AS4)を使用した。分画した溶液をICP-AESにより測定したところ完全に分離したクロマトグラムが得られた。
亜セレン酸イオン(SeO32- 以後Se(IV)とする)とセレン酸(SeO42-—以後Se(VI)とする)はジルコニア担持樹脂カラムで分離が可能であった。pH3ではSe(IV),Se(VI)ともカラムに完全に保持されたがpHを高くするとSe(VI)の保持率が低下し,pH8以上でまったく保持されなかった。この条件ではSe(IV)は完全にカラムに保持された。したがってこのpHではSe(IV),Se(VI)が完全に分離される。カラムに保持されたセレンはいずれの場合も0.2molのNaOH溶液で溶離し,回収が可能であった。
Se(IV),Se(VI)がともに0.1μg/mlの混合溶液についてpH3とpH8の場合の回収率を調べた。全セレンについては250mlを10mlに,Se(IV)は250mlを20mlに濃縮することが可能で,回収した試料をICP-AES
で測定することによりppbレベルの分析を可能にした。
三次元設計及びラピットプロトタイピング技術を活用した商品化支援研究
<研究事業名>デザイン開発支援事業
<担当者名>佐藤明,伊藤克利,小松迅人
<目的>
商品のライフサイクルの短縮化や多品種少量生産が拡大する中で,県内中小企業においても,市場ニーズに対応した迅速な商品づくりが大きな課題となっている。本研究においては商品開発における効率化,迅速化を目的とした商品化支援システムの構築を図った。また,紙積層造形モデルの木型への応用のための検証を行った。
<内容及び結果>
(1)3次元CAD設計技術,ラピットプロトタイピング技術の構築
(1)造形機パラメーターの探索
光造形機(3D-sys:SLA500)における中実モデル(ACESオブジェクト)積層厚100ミクロンの適正パラメーター模索及び紙積層造形装置(ヘリシス社LOM2030H)の各オブジェクトサイズにおける適正パラメーターの探索を行った。
結果:光造形機において積層厚100ミクロン中実モデル(ACESオブジェクト)を造形するためのの適切なHatch Over cure ・Border Over cure・Blade Gap・Velocityの値を見出した。
紙積層造形装置においてオブジェクトサイズに適切なヒートローラー設定(温度,送り速度)の値を決定した。
(2)データ互換の検証
各企業の保有する3次元CADとのデータの互換性(IGESファイルによる)の検討をおこなった。
結果:7つの異なるCADから当センター保有のCADへのデータ互換実験を行い適切なトレランス設定フレーバー設定方法及び不具合がでやすいトリムサーフェース等のための修正手段を構築した。
またネットワークによるデータ送受信上の互換性の検証をおこないその有効性が認められた。
(3)3次元CAD設計技術を活用した商品開発トライアル
3次元設計技術の設計スキル検証,各プロセスにおける単位時間の検証,システム間のデータ交換における不具合の検証を目的にデザイン,設計,シミュレーション,試作までのプロセスをトライアル,二つの商品に対して実践的な商品開発を行った。
トライアル1 多目的収納ケース
トライアル2 スノーボード用ビンディング
結果:実践的な商品開発のプロセスを検証したことにより,プロセス間で発生する問題点の把握及び対応手段を得られた。なお2つのトライアル商品は,意匠登録を検討している。
(2)紙積層造形モデルの高度化と適用範囲の拡大(紙積層造形モデルの木型への応用)
紙積層造形モデルの木型への応用を目標とするため,(1)寸法の安定性 (2)木型作製期間の短縮化(3)実用化に向けた課題抽出等について検証を行った。
造形モデルの寸法変化を把握するため,試料(100×200×100mm)を温度25℃湿度70%,及び温度25℃湿度30%の環境条件下で,7日間の寸法変化を測定した。
結果:UV塗料を塗布することにより,高湿度環境においても一般的な木型精度の許容範囲である収縮が1%以内であることが確認できた。また,木型製作において3次元CAD設計及び紙積層造形装置の導入により大幅な短縮化が図られた。
水煮フキの品質安定化技術と加工品の開発
<研究事業名>バイオ・食品加工技術開発事業
<担当者名>相澤和浩,畑中咲子,加藤正美
水煮加工後,色調と物性保持が可能となる加工及び流通技術の検討を行う。
<内容および結果>
色調及び物性保持が可能となる煮液と漬液の検討を下記の条件で行った。
煮液 | 食塩水 5区 |
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温 | 100℃ |
時間 | 3分 |
処理量 | 1kg/L |
漬液 | リン酸緩衝液 6区 |
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温度 | 室温(平均18℃) |
処理量 | 1kg/L |
煮沸液の塩分濃度による色調と硬度変化を調査した結果,食塩3%添加が硬度及び色調を良好に保つことができた。
漬液としてリン酸緩衝液を使用した結果,水道水よりも色調と硬度の保持が可能であり,アスコルビン酸を添加することによって効果が高まった。
また,最適pHを保存試験(保存温度:10℃)により検討した結果,リン酸緩衝液はpH8に調整して使用することが適当であった。
夏出し特産野菜の品質保持技術の確立
・ミョウガタケの品質保持技術の確立
・ニラの品質保持技術の確立
<研究事業名>バイオ・食品加工技術開発事業
<担当者名>相澤和浩,畑中咲子,加藤正美
<目的>
・ミョウガタケの品質保持に用いるアスコルビン酸溶液の使用方法について検討する。
・ニラの品質低下要因を明らかにし,現場で導入可能な品質保持技術を開発する。
<内容および結果>
・浸漬して残ったアスコルビン酸溶液の残効を確認するため計5回の利用を行い,貯蔵後の色調変化を測定した。はかまの鮮紅色を測定した結果,浸漬残液の再利用は品質保持上可能であるが,計4回の使用が限度と考えられた。
アスコルビン酸濃度 | 3% |
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処理量 | 20kg/20L |
浸漬時間 | 8時間 |
浸漬温度 | 平均25℃ |
貯蔵期間 | 処理後4週間 |
貯蔵温度 | 5℃ |
・ニラの出荷流通過程における現状把握を行った結果,予冷効果にばらつきがあり,生産者(品種,栽培方法等)による品質の差もみられた。外観の変化は外葉から始まり,品質低下に伴い,グルコース含量が減少した。
酸素透過量の異なるガス調整フィルムを検討した結果,酸素透過量の多いフィルム(20000cc/m2・24h)は,異臭が若干発生するが慣行フィルムより品質低下を遅らせた。
中山間地域の特性を活かした畑特作物高生産性栽培技術体系の確立
小瀬菜大根の加工品の開発
<研究事業名>バイオ・食品加工技術開発事業
<担当者名>畑中咲子,相澤和浩,加藤正美
<目的>
中山間地域の小野田町特産「小瀬菜大根」の特徴を活かした加工品の製造方法を明らかにする。
<内容および結果>
今年度は,原料(大根)の保存方法と大根おろし(以下おろし)の辛味の保持方法について検討した。
原料の保存条件として冷蔵と冷凍,形態は大根とおろしについて検討した結果,冷凍保存は辛味が保持されず,大根をそのまま冷蔵保存する方法が最も辛味を保持した。また,おろしに分枝サイクロデキストリンを加えた結果,添加量が多いほど辛味が保持された。
今後,原料の保存方法をさらに検討するとともに,辛味を活かした加工品の製造方法を検討する予定である。
雑誌古紙を用いた発泡成形エコマテリアルの開発
<研究事業名>産業化研究開発事業
<担当者名>加藤正美,中塚朝夫,原田牧人,有住和彦
<目的>
再生不適な古紙を用いて,発泡スチロール・発泡ポリウレタンなどに代表される化石資源由来素材の代替品を開発し,緩衝材として商品化する。
<内容および結果>1.架橋反応の制御方法
昨年度に見いだしたホルマリン以外の架橋反応剤について,ラピッドビスコアナライザー(RVA)および20Lスケール仕込によるサンプル試作から検討を行った。その結果,架橋反応剤のバインダーへの添加タイミング・紙質による添加量調整・pH制御による架橋反応挙動について,原料古紙毎およびバインダー種類毎の基本的な方法を確立した。また架橋の導入による動的緩衝特性への影響についても検討を行った。
2.物性の賦与・制御
原材料となる「古紙」の種類・配合量,「バインダー」の質・配合量および柔軟化剤であるグリセリンの配合量,さらには連続発泡装置による注入空気量の制御における緩衝材密度と緩衝特性の相関について検討を行い,コストの低減化を図りつつ,目標とする動的緩衝特性を発揮する配合処方を確立した。
一方,使用環境が本素材の緩衝特性に与える影響を評価するために,加湿および除湿条件下での動的緩衝特性評価も行った。その結果本素材は比較的湿度に敏感である特性が明らかになった。さらに外部委託によりオフガス試験を行い,精密機器用梱包材としての適性を評価し,特に有害と思われるガスの発生が認められないことを確認した。また本素材の生分解性についても外部委託により検討を行った。
なお,本研究はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託を受け,鈴木工業株式会社ならびに三菱化工機株式会社との共同により実施したものである。